核分裂:制御された“崩壊”からのエネルギー抽出
基本原理と連鎖反応
核分裂は、ウラン-235(²³⁵U)やプルトニウム-239(²³⁹Pu)などの重い原子核が中性子を吸収することで不安定になり、約2つのより軽い原子核(分裂片)に分裂する現象である。
この過程で重要なのは以下の三点である:
- 莫大なエネルギー放出:アインシュタインの関係式
E=mc²
に従い、分裂前後の質量のごくわずかな欠損(質量欠損)が、膨大なエネルギーに変換される。1グラムのウラン235が分裂すると、石油約2トン分に相当するエネルギーを発生する。
- 中性子の放出:分裂時に平均2~3個の中性子が新たに放出される。
- 連鎖反応の成立:この放出された中性子が、周囲の他の重原子核に衝突して新たな分裂を誘発し、反応が持続的に連鎖する。
現在の原子炉は、この連鎖反応を制御棒(中性子吸収材) で調整することで、出力を一定に保ちながらエネルギーを取り出している。
利点と現実的課題
- 利点:
- 技術的に成熟し、大規模なベースロード電源として実績がある。
- 発電過程で温室効果ガスをほとんど排出しない。
- 課題:
- 長寿命放射性廃棄物:使用済み核燃料には、数万年以上にわたって管理が必要な超ウラン元素等が含まれる。その最終処分(地層処分)は社会的・技術的に未解決の課題である。
- 核拡散リスク:核分裂物質を兵器転用可能な技術である。
- 大規模事故の潜在的リスク:炉心溶融(メルトダウン)に至る重大事故の可能性がゼロではない。
核融合:“創造”に近いエネルギー生成の仕組み
基本原理と実現の難しさ
核融合は、重水素(D)とトリチウム(T)などの軽い原子核が超高温度・超高圧の環境下で衝突し、より重い原子核(ヘリウム等)へ融合する現象である。この時、融合前後の質量欠損がエネルギーとして放出される。
地球上で核融合を実現する上での最大の障壁は 「クーロン斥力」 である。正の電荷を持つ原子核同士は強く反発し合うため、融合させるためにはこれを打ち破る必要がある。そのために必要なのが、
- 1億度以上という超高温:原子核をプラズマ状態(電子と原子核が分離した気体)まで加熱し、猛烈な熱運動で衝突確率を高める。
- 長時間の閉じ込め:この超高温プラズマを、何らかの方法で容器から接触させずに保持(閉じ込め)し、融合反応が持続する条件を作る。
太陽の中心部では、巨大な重力がこの閉じ込めの役割を果たしている。地球上では、磁場を用いてプラズマを浮遊させる「磁場閉じ込め方式」 (トカマク型、ヘリカル型等)が主流の研究手法である。
期待される可能性と克服すべき壁
- 可能性:
- 燃料が豊富で偏在しない:重水素は海水にほぼ無尽蔵に存在し、トリチウムは炉内でリチウムから生成可能。燃料の地理的偏在が少ない。
- 高レベル放射性廃棄物問題が本質的に軽減:反応自体では長寿命の高レベル放射性廃棄物は生成されない。炉壁材料が中性子照射により放射化されるが、その管理期間は分裂炉の廃棄物に比べて大幅に短い(数百年程度)。
- 原理的に暴走事故(炉心溶融)が起こりにくい:プラズマ状態は極めて繊細で、条件が崩れれば反応は瞬時に停止する。
- 技術的・工学的課題:
- エネルギー収支「Q値」の達成:投入したエネルギーよりも多くの融合エネルギーを取り出す(Q > 1)状態の達成と、さらに発電所として成立する Q >> 1(約10以上) の実現。
- 持続的かつ安定なプラズマ閉じ込めの確立。
- 超高熱に耐える材料開発:1億度のプラズマに直面する「第一壁」材料の開発。
核分裂 vs. 核融合:包括的比較表
| 特性 / 項目 | 核分裂 (Nuclear Fission) | 核融合 (Nuclear Fusion) |
|---|
| 反応の本質 | 重い原子核が分裂する(“崩壊”) | 軽い原子核が融合する(“創造”) |
| 主な燃料 | ウラン-235、プルトニウム-239(限定的な資源) | 重水素(海水から抽出)、トリチウム(リチウムから炉内生成) |
| 反応の誘因 | 中性子の吸収(比較的低エネルギーで開始可能) | 超高温度・高密度によるクーロン斥力の克服(開始が非常に困難) |
| 反応条件 | 臨界量を超える燃料、中性子の減速材(水など) | 1億度以上のプラズマ生成、強磁場等による長時間閉じ込め |
| エネルギー出力 | 非常に大きい | 理論上、単位質量あたりで核分裂の数倍大きい |
| 放射性廃棄物 | 長寿命・高レベル放射性廃棄物(数万年管理が必要)を生成。使用済み燃料の処理・処分が重大課題。 | 反応自体では生成しない。炉壁材料が放射化されるが、管理期間は数百年程度とされる。 |
| 核拡散リスク | 燃料や副生成物が核兵器に転用可能なリスクがある。 | 原理的に兵器転用が極めて困難な設計が可能。 |
| 安全性 | 制御を失うと連鎖反応が持続・増大する可能性があり、炉心溶融のリスクがある。 | プラズマは本質的に不安定で、条件が崩れれば反応は瞬時に停止する。大規模な暴走事故は原理的に起こりにくい。 |
| 技術成熟度 | 完全に商業化されており、多数の実用炉が運転中。 | 実験段階。エネルギー収支プラス(Q>1)の実証を目指している。 |
| 実用化の見通し | 現存する技術。第IV世代炉など、より安全・効率的な炉の開発が進行中。 | 発電所の実現は早くても2050年以降と見られている。 |
最新の研究開発動向:ITERと次世代炉
国際熱核融合実験炉「ITER」プロジェクト
核融合研究の最大の国際共同プロジェクトが、フランス・カダラッシュで建設中の ITER(イーター) である。日本、EU、米国、ロシア、中国、韓国、インドが参加している。
- 目標:Q ≥ 10、つまり投入した加熱電力の10倍以上の融合エネルギーを約400秒間持続して発生させること。これは、核融合がエネルギー源として成立する可能性を科学的に実証する「エネルギー増倍率の実証」が主目的である。
- 日本の貢献:超伝導コイル、遠隔保守装置など、中枢部品の多くを日本が分担製造している。国内では那珂核融合研究所(量子科学技術研究開発機構)が中心となり、サテライトトカマク「JT-60SA」を運用し、ITERを支援する研究を進めている。
核分裂技術の進化:第IV世代原子炉と核変換
核分裂技術も停滞しているわけではない。
- 第IV世代原子炉:安全性、廃棄物発生量、核拡散抵抗性、資源利用効率の全てを高めた次世代炉の開発が国際フォーラム(GIF)で進められている。高速炉、高温ガス炉、溶融塩炉などの概念が研究段階にある。
- 核変換技術:高速炉や加速器駆動未臨界炉(ADS)を用いて、長寿命の放射性廃棄物(マイナーアクチノイド)をより短寿命の核種に「変換」し、処分負担を軽減する技術の研究開発が行われている。
未来への展望:補完し合うエネルギーポテンシャル
核分裂と核融合は、単純に「新旧」や「善悪」で比較できる技術ではない。それぞれが異なる時間軸と役割で、未来の低炭素エネルギーシステムに貢献する可能性がある。
-
核分裂の役割(今後数十年~百年):
- 既存の脱炭素電源として、再生可能エネルギーとともに移行期のエネルギー供給を支える役割は続く。
- 安全性を飛躍的に高めた新型炉や、廃棄物削減技術の開発が進めば、その社会的受容性は変化する可能性がある。
-
核融合の役割(今世紀後半~以降):
- 究極の持続可能な基幹エネルギー源としての実現が期待される。ITERの成功と、その後に計画される実証炉(DEMO)、原型炉を経て、商業炉への道筋が描かれる。
- 実用化には、物理学の壁に加え、工学的・経済的な壁も巨大である。国際協力と長期的な投資が不可欠である。
結論
核分裂は、人類が初めて手にした原子力技術として、その膨大なエネルギーと共に、廃棄物や安全という重い課題ももたらした。核融合は、その課題を原理的に克服する可能性を秘めながらも、科学技術の限界に挑む未踏の領域にある。
エネルギー問題の文脈で両者を理解することは、単に科学的好奇心を満たすだけでなく、私たちがどのようなエネルギー未来を選択し、そのための研究開発にどう向き合うべきかを考えるための重要な知的基盤となる。ITERをはじめとする挑戦が続く中、両方の道筋に注がれる世界的な努力から目を離すことはできない。